大判例

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東京高等裁判所 平成3年(行コ)44号 判決

控訴人

奥津茂樹

右訴訟代理人弁護士

飯田正剛

野澤裕昭

清水勉

被控訴人

東京都知事

鈴木俊一

右指定代理人

金岡昭

外二名

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人が控訴人に対して平成元年九月五日付けでした東京都公文書の開示等に関する条例に基づく公文書非開示決定処分を取消す。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文と同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人の地位

控訴人は、東京都文京区内に事務所を有する「情報公開法を求める市民運動」と称する団体に事務局長として勤務している者であり、東京都公文書の開示等に関する条例(以下「本条例」という。)五条三号の「都の区域内に存する事務所又は事業所に勤務する者」として、本条例による公文書の開示を請求することができる。

2  本件開示請求

控訴人は、平成元年八月二三日、被控訴人に対して、「個人情報実態調査に関して警視庁から入手、取得した一切の文書」について、本条例による開示の請求をした(以下「本件開示請求」という。)。

3  本件処分等

(一) 被控訴人は、同年九月五日、控訴人に対し、本件開示請求の対象となっている文書が警視庁から提出された「個人情報保護対策の検討について」と題した文書(以下「本件文書」という。)であるとした上、本件文書が開示しないことができる公文書の範囲を定めた本条例九条八号所定の情報(監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、……関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は……)が記録されている公文書に当たるものとして、これを開示しないとの決定(以下「本件決定」という。)をし、そのころ、控訴人に対し、「本条例九条八号に該当」との理由を付してその旨を通知した。

(二) 本条例七条四項は、開示の請求に係る公文書を開示しない旨の決定をする場合には、非開示決定通知書に非開示の理由を付記しなければならないものと規定している。

4  しかし、本件決定は、それに付された理由が本条例七条四項に違反する不備なものであり、また、本件文書が本条例九条八号に定める文書に該当するとした点において違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2及び3(一)、(二)の各事実はいずれも認める。

三  抗弁

1  公文書開示請求権の性質及び本条例の解釈基準

公文書開示請求権は、憲法二一条等の憲法の規定に基づいて直接的に発生する権利ではなく、条例により、公文書の開示を求める権利を認める規定が置かれたことにより発生するものであって、条例によって創設される権利である。

したがって、本件開示請求も本条例の規定、殊に一条及び五条によって初めて認められるのであり、それが認められるか否かは、法文解釈の一般原則と本条例の各条項、殊に、本条例の解釈及び運用を定めた三条及び開示しないことができる公文書について定めた九条の解釈によって判断すれば足りるのであって、非開示について定めた条項を文言以上に厳格かつ制限的に解釈すべき理由はない。

2  本件文書の性質及び本条例九条八号該当性

(一) 東京都総務局は、昭和六三年一〇月から一二月にかけて、個人情報保護条例制定の準備作業として、各部局(知事部局、公営企業局、警視庁、消防庁等)が保有している個人情報の実態調査を行った。その調査方法は、「個人情報実態調査票」に所定事項の記入を求め、これを提出させるというものであった。

(二) 本件文書は、右調査において警視庁から提出されたものであるが、個人情報が記録されている電子ファイル件数と文書件数(以下双方を併せて「ファイル件数」という。)、その登録個人数、収集先別ファイル件数、利用範囲別(内部利用、外部利用の別)ファイル件数等の外、登録個人数内訳、ファイル件数(登録個人数別分布状況ファイル件数)が記録されている。

(三) 右文書の提出に際しては、警視庁から、警視庁が保有する情報は、警視庁独自の情報ばかりではなく、全国的なものが多いなど、警察情報の特殊性などを理由として、行政内部においてのみ使用し、これを公にしないことを条件とすることを強く求められた結果、それを条件として取得したものである。

(四) 本件文書は本条例九条八号前段が定める文書のうち「その他実施機関が行う事務事業に関する情報」に該当する。

(五) 前記の本件文書の取得経過に照らし、また、警視庁が本条例による情報公開の実施機関でないことからすれば、本件文書を開示すれば警視庁と東京都との協力信頼関係が損なわれるとともに、今後の類似の調査に対する警視庁側の協力をも困難にし、被控訴人の行う事務事業の円滑な執行に支障が生ずる恐れがあるから、本件文書は本条例九条八号の開示しないことができる文書に該当する。

なお、控訴人は、右のように解するならば、行政機関相互間において非開示の合意をすればいかなる文書も非開示とすることができる文書に該当してしまう旨主張するが、本件において、被控訴人が公開しない旨を約した情報提供者である警視庁は、本条例上、情報公開の実施機関ではないのであるから、その約束を尊重して、信頼関係を保持する必要がある。しかし、本条例上、実施機関から除外されているのは、警視庁と議会だけであって、その他の行政機関はすべてが実施機関である。そうすると、仮に、実施機関相互間で非公開の合意がされたとしても、情報を提供した行政機関は、本来保有している情報についての実施機関であるから、情報提供を受けた行政機関がその合意を理由に開示を拒んでも、情報を提供した実施機関に開示請求をすれば、開示請求者はその目的を達することができるのであるから、控訴人が懸念するような事態は生じない。

3  本件決定の理由付記の適法性

(一) 本条例七条四項は、本条例九条各号の規定のいずれに該当するかなど、公文書を開示することができない理由を七条二項に規定する書面(文書非公開通知書)に具体的に付記することを実施機関に義務づけるものであるが、その趣旨とするところは、決定権者の慎重かつ合理的な判断を確保するため及び処分の理由を相手方に知らせるためにある。

そうすると、非開示決定にその理由が全く示されていない場合は、右七条に違反するものとして違法な処分となる恐れがあるが、少なくとも、本条例九条に列挙されている非開示事由のうちいずれの事項に該当するかが明示されていれば、右七条の義務づけている理由付記は一応されていると解すべきである。

ところで、本条例九条八号の場合には非開示理由が複数存するため、開示請求者にとっては、「九条八号」との記載だけでは、具体的に八号中のいずれの事由に該当することを理由に非開示とされたかを知り得ないという不利益が生ずることも考えられる。しかし、その場合でも、開示請求者が既にその事由を知っている場合には、 理由付記は「八号該当」の記載だけで十分にその目的を達しているというべきであり、仮に、開示請求者が具体的には八号中のいずれの事由によって非開示とされたかを知らず、また、非開示決定通知書自体からもそれが直ちに判明しない場合であっても、電話による問い合わせや直接窓口に出向いて詳しく説明を求めれば容易に知り得るのであるから、非開示の理由が全く付されていない場合とは異なるというべきである。したがって、開示請求者が非開示の理由が本条例九条各号のうちいずれの事由に該当するためによるものか知らない場合であっても、本条例が義務付けている理由付記としては、最小限として本条例九条各号のいずれに該当するかが明記されていれば足りると解すべきである。

(二) 本件においては、本件文書が非開示文書に当たる理由としては本条例九条八号に該当する旨が公文書非開示決定通知書に明記されており、加えて、本件開示請求の文書が、個人情報実態調査に関して、被控訴人が、本条例に定める実施機関から除外されている警視庁から入手・取得した文書であることからすれば、控訴人は本件文書の非開示の理由が本条例九条八号に定められた事由のうち、その情報を開示することにより、関係当事者である警視庁との信頼関係が損なわれ、ひいては、被控訴人が行う将来の事務事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるということにあることは、容易に認識できたものというべきである。

(三) また、控訴人は、平成元年九月一四日、右通知書を持参して非開示の理由を質問してきたが、その際控訴人は既に非開示の理由を十分に認識していたばかりでなく、更に、控訴人に対して、被控訴人の担当職員において、本件文書は外部に公表しないことを条件に、警視庁の協力により取得した情報であり、これを開示することになれば、都と警視庁との協力、信頼関係は損なわれるとともに、今後、個人情報保護制度確立に向けての事務の円滑な執行に著しい支障が生ずる恐れがある旨を説明した。したがって、控訴人は、それにより本件決定における非開示の理由を十分認識した。

(四) 以上のとおり、被控訴人は、非開示決定通知書に本件決定の非開示の理由として、本条例の具体的な条項を記載したのであるから、理由付記に不備はない。仮に、開示請求権者が、処分当時、既に非開示の事由を知っている場合であっても、非開示の理由として本条例の具体的な条項の記載だけでは足りず、更に、その具体的な内容をも記載すべきであるとしても、本件においては、右(三)のとおり、被控訴人は、本件決定後、控訴人に対し、具体的な非開示事由を説明しているのであるから、本件決定を取り消さなければならない程の違法性はないというべきであり、したがって、本件決定の理由付記は適法である。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1の主張は争う。

(一) 国や地方自治体が保有する情報の開示ないし提供を求める権利(知る権利)は、国民主権原理(憲法前文、一条、一五条)、表現の自由(憲法二一条)、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(憲法二五条)、個人の尊重・生命自由及び幸福追求権(憲法一三条)など憲法諸条項に複合的な根拠を有する基本的人権であり、情報を保有する者に対して、その情報の開示、提供を求めることを内容とする積極的な権利である。

すなわち、人の表現過程とは、思想・情報の収集―判断―伝達の過程である。自由な思想・情報の伝達は、自由な思想・情報の収集なしには成立しない。したがって、真に表現の自由が保障されるためには、自由に情報に接しこれを摂取する権利が保障されることが不可欠である。そして、これは単に情報の自由な獲得を公権力が妨げてはならないという消極的な保障に止まらず、情報を保有するものに対して積極的に情報の開示、提供を請求する権利と構成される。

しかし、知る権利は、表現の自由の派生原理としてだけではなく、憲法の基本原理である国民主権原理に重要な根拠を有するものである。民主主義は、主権者である国民が政治過程に積極的に参加し、自主的に政策を決定ないし選択し、政府の行為を監督する制度であるが、その自主的な判断形成、監督の前提としての政策決定に係わる多様な情報が自由に獲得できなければならない。国民によって監督されるべき国家が国民に知らせるべき情報を取捨選択する権利はない。したがって、国家は、国民に対し、情報を開示するのが原則である。

また、健康で文化的な最低限度の生活を営むためには、経済的、物質的な保障は勿論として、単にそれだけに止まらず、健康に害を与えるような事項に関する情報、逆に健康で文化的な生活を営むために有益な情報を摂取することが必要である。人間が人間らしく自己実現をしていくためにも、多様な情報を獲得することが不可欠である。

(二) もとより、右の積極的意味の情報開示請求権は、憲法上の権利であるにしても、あくまで抽象的権利であり、これを直ちに具体的権利と解することはできず、具体的な立法が必要ではある。本条例は、右の憲法に由来する情報開示請求権を具体化したものである。そして、その具体的立法に当たっては、憲法に由来する情報公開請求権を具体化するものである以上、憲法の保障の趣旨に適合するものでなければならない。したがって、情報公開条例を制定するに当たっては、公開を原則とし、公開を制限する規定は合理的理由のある必要最小限度のものにするべきものである。公開を制限する規定が右の限度を超えるときは、その規定は違憲となる。

(三) 本条例九条八号の規定は、その前段において「その他実施機関が行う事務事業に関する情報」と包括的に規定し、また、後段においても、「都の行政の公正もしくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」と包括的な一般条項的規定としている。このような規定は、明確性を欠くとともに、両者を組み合わせた場合には更に規制範囲は包括的かつ漠然としたものとなることは明らかである。このような規定は、公開を制限する規定としての合理的な理由のある必要最小限度の範囲を超えるものであるから、違憲無効である。

仮に、本条例九条八号の規定を合憲的に限定解釈をするのであるならば、本条例は、その制定過程に鑑みても、行政側の恣意的な解釈・運用を排し、都民の公開請求権の実質的な保障を図ろうとしたものであるから、規定の文理や趣旨に照らして厳格に解釈されるべきである。その場合、同号によって保護されるべき利益が、情報公開をすることの公益性や有用性と比較衡量して実質的に保護に値する正当な利益であるか否か、そして、情報公開によってその利益が侵害されることになるか否かを検討されるべきである。

2(一)  抗弁2(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は不知。

(三)  同(三)の事実は否認する。警視庁と被控訴人との間に被控訴人において積極的に本件文書を公開しないとの趣旨の合意はあったとしても、本条例による開示請求がされた場合においても非開示とするとの趣旨までの合意は存在しなかった。

本件文書は、警視庁が都に資料として提供し得る情報として、自らの業務に支障がない範囲で作成、提供したもので、その内容は、被控訴人の主張を前提にしても、警視庁が保有する文書及び電子ファイルについての数に過ぎないから、警視庁が非公開の合意の前提にした本件文書の公開によって生ずるとした警察業務の支障が生ずることはない。警察に関する情報は、警察白書等によってこれまでにも概括的なものから詳細かつ具体的なものまで公表されており、それらと比較しても本件文書の内容は警察の業務に支障を来すものではなく、本件文書を非公開とする実質的理由は何ら存しない。

なお、仮に、控訴人が主張するとおりの合意が存したとしても、行政機関相互間で非開示の合意がされれば開示する必要がないとするならば、そのような合意をすることによって、本条例の趣旨を潜脱することができることになり、不当である。

(四)  同(四)の主張は争う。本号の「その他」は、その前の「監査、検査、取締り、徴税等の計画……用地買収計画」が例示であり、それに類似する事務事業に限定されると解すべきであり、被控訴人の解釈、運用もそれを前提にして行われていたのである。したがって、本件文書は本号前段の定める情報には該当しない。

(五)  同(五)の主張は争う。公文書の開示によって生ずるとされるおそれ、危険については、それが具体的に存在することが客観的に明白であるか否かを検討しなければならない。したがって、単に被控訴人が「関係当事者間の信頼関係が損なわれる」とか「将来の同種の事務事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」と判断しただけでは足りず、それらのおそれあるいは危険が具体的に存在するかを客観的に判断する必要がある。

ところで、前記(三)のとおり、本件文書に関しては、警視庁と被控訴人との間に、本条例に基づく開示請求があった場合にまで開示しないとの合意は存在しなかったのであるから、両者の信頼関係が損なわれるおそれはない。

また、前記(二)記載の本件文書の内容からすれば、将来の同種の事務事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれは全く存しない。

3(一)  同3(一)の主張は争う。通常、行政処分に理由の付記が要求されるのは、①行政の決定の公正さの担保、②処分理由を相手方に知らせることによる不服申立ての便宜の供与の二点に理由が存するが、それ故、理由は一義的に明確なものでなければならず、実質的にも都民の殆どは本条例の条文の内容を知らないのであり、仮に知っているとしても、都民にその条文解釈を求めることは不可能に近いことを強いることになるから、本条例七条四項の規定は、単に非開示の根拠条文を明らかにすれば足りるとするものではなく、それと併せて具体的な非開示理由を付記することを要求しているものと解すべきである。

(二)  同(二)の主張は争う。本条例九条八号は、都の行政全般について、非開示を相当とする可能性のある事情を抽象的に類型化したものであるが、控訴人が開示を求めた文書は「個人情報実態調査に関して警視庁から入手・取得した一切の文書(一九八八年度分)」という漠然としたものであり、控訴人としては右文書の具体的内容を知らなかったのであるから、開示請求をした文書が右条項のうちどの事由に該当するか、具体的に当てはめようもない。

(三)  同(三)の事実中、同日、控訴人が被控訴人の担当者から非開示理由の説明を受けたことは認めるが、その内容は否認する。右の機会に、被控訴人から、本件文書が外部に公表しないことを条件に警視庁から提供されたものである旨の説明を受けたことはない。右(一)の理由付記を必要とするところからすれば、開示請求時において、請求者が個人的に知りえた事情や事後的な被控訴人の口頭説明などは、決定の公正さを担保するものではなく、非開示理由の一義的明確性や分かりやすさを損なうものであるから、これらによって付記理由の不備を補うことはできない。

(四)  同(四)の主張は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。以上によれば、控訴人は本条例による公文書の開示を請求できるものである。

二先ず、本件決定の理由付記の適否について判断する。

1  本条例七条四項は、実施機関が公文書の非開示決定をする場合には、その非開示決定通知書に非開示の理由を付記しなければならない旨規定しているところ、本件決定の非開示通知書にはその理由として「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当」とのみ記載されていたことは当事者間に争いがない。

2 一般に、法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり、付記すべき理由をどの程度記載しなければならないかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨、目的に照らしてこれを判断すべきであって、その求められている趣旨に適った理由付記がなされていない場合には、その行政処分は、手続上のかしがある処分として取消しを免れないものと解すべきである(最高裁判所昭和三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、昭和六〇年一月二二日第三小法廷判決・民集三九巻一号一頁参照)。

以上の理は、条例が理由付記を命じた場合も同様である。そこで、本条例について考えるに、本条例が理由付記の規定を設けた趣旨は、その請求の対象となる文書が本条例の実施機関の内部文書等を含むことから、開示請求に対する判断が抑制的になったり、恣意に流れるおそれがあることなどから、その実施機関の判断の慎重、合理性を担保し、恣意的な判断を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えた趣旨であると解される。本条例が理由付記を命じた右の趣旨からすれば、七条四項が定める付記すべき理由の程度は、その対象の公文書の性質自体等から、九条各号のいずれかに該当する旨を記載すれば明確にその具体的理由が読み取れ、七条四項の要求する付記すべき理由として十分その要件を満たす場合が存することはあり得るとしても、一般的には、単に本条例九条各号のいずれかに該当することのみを記載するだけでは足りず、いかなる理由で右条項に該当するかを具体的事実に基づいて記載しなければならないと解すべきである。そして、右の七条四項の趣旨、目的からすれば、右の理由付記の程度は、開示請求者が処分理由を推知できると否とにかかわらずに要求されるものであり、理由付記が不備な場合には、口頭の説明により具体的な理由が補充されたとしても、それによってその瑕疵が治癒されるものではなく、非開示決定は取消しを免れないと解するのが相当である。

3 これを本件についてみるに、本条例九条八号は、一号から七号までの要件に該当しないが、開示しないことが相当である場合について、その前段で対象文書の範囲の側面から、後段で文書を開示することによって生じる障害事由の側面から、複数の対象文書及び複数の障害事由をいずれも包括的に規定しており、非開示の理由として、単に九条八号に該当と記載したのみでは、本件文書が九条八号前段の定めるどの文書に該当するのか、また、いかなる事実によりどの障害事由が存するのか全く不明であるという他はなく、本条例七条四項が求める付記すべき理由としては不備であるというべきである。

被控訴人は、本件文書が、元来本条例の実施機関ではない警視庁によって作成された文書であることから、開示請求者である控訴人は当然その非開示理由を推知できたというべきであるから、当該条項以外に特段の理由を付記する必要はなかった旨、また、控訴人が非開示理由を推知できなかったとしても、口頭により補充的に説明を受ければ理由は判明するのであるから、本条例七条四項による理由付記としては右以上の理由を付記する必要はない旨、そして、現に、控訴人は、本件決定の通知を受けた後である平成元年九月一四日、被控訴人の担当職員から本件決定の理由の説明を受けた際、既にその理由を認識しており、その上、被控訴人の担当職員が控訴人に対し、本件文書は外部に公表しないことを条件に、警視庁から取得した情報であり、開示すれば、都と警視庁との協力、信頼関係は損なわれるとともに、今後、個人情報保護制度確立に向けての被控訴人の事務の円滑な執行に著しい支障が生ずる旨を説明したから、本件決定の理由付記には不備はない旨主張するが、右各主張が理由がないことは先に判示したとおりである。

4  以上によれば、本件決定は、その非開示決定通知書に記載された理由付記の程度が本条例七条四項に定める要件を満たしていないから違法であるというべきであり、取消しを免れない。

三以上のとおり、控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由があるからこれを認容すべきであり、これに反する原判決は不当であるから、行訴法七条、民訴法三八六条により、原判決を取消し、主文のとおり判決する。

訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九六条、八九条適用。

(裁判長裁判官髙橋欣一 裁判官伊藤博 裁判官吉原耕平)

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